「AIに任せていったら、うちの仕事は最後どこに残るんですか」。AI導入の相談で、社長から必ずと言っていいほど聞かれる質問です。
私の答えは決まっています。なくなるのは「作る」工程で、残るのは「届ける」工程です。宅配で言うところの、ラストワンマイルです。
荷物は海外の倉庫からでも、翌々日には最寄りの営業所まで着きます。そこから先、玄関のチャイムを押すまでの数キロは、いまだにドライバーが一軒ずつ回っている。輸送網が大きくなればなるほど、この最後の区間だけが重くなっていきました。AIの導入で会社に起きることも、これとよく似ています。
「作る」工程は、先にAIへ移っていく
見積書の文面、提案書の骨子、問い合わせへの返信案、議事録の整理。こうした「何かを形にする」仕事は、条件さえ渡せばAIが先に仕上げてきます。しかも、以前なら担当者が半日抱えていたものが、待ち時間の間に出てくる。
ここで大事なのは、AIが出してくるものが「完成品」ではなく「ほぼ完成品」だという点です。中身は整っているのに、そのまま相手に出すと妙に浮く。何が足りないかというと、その資料を受け取る相手の顔が、どこにも入っていないからです。
「届ける」工程は、その場でしか決まらない
私自身の例で言うと、セミナーの登壇がこれにあたります。スライドの構成も、話す原稿も、いまはAIが先に組んでくれます。それでも会場に立つと、決めていた順番どおりには進めません。
前の席で腕を組んでいる人がいれば、そこで一度、身近な失敗談を挟む。うなずきが増えたところで、用意していた事例を1つ飛ばして先に進む。終わってから名刺交換に来た人の一言で、次に会うときの話題が決まる。こうした判断は、その場の空気を見て初めてできることで、原稿にあらかじめ書き込んでおけるものではありません。
「事前に条件を細かく渡せばAIも対応できるのでは」と思うかもしれません。ただ、相手がその日どんな気分で、何を警戒しているかは、会うまで分かりません。分からないものは、渡しようがない。届ける工程が人に残るのは、能力の問題ではなく、情報が「その場」にしかないからです。
小さな会社ほど、ラストワンマイルで戦える
ここに、中小企業にとっての好材料があります。従業員が数人から数十人の会社では、社長や幹部が顧客と直接向き合っています。届ける工程を、いちばん判断できる人が自分でやっている。大きな会社が分業で失いがちな部分を、最初から持っているわけです。
だとすれば、やることは3つに絞れます。
- 「作る」仕事を書き出して、AIに渡す。文面・下書き・集計のように、形にする作業から順に手放す
- 空いた時間を、相手と向き合う場面に移す。訪問の回数、面談の長さ、電話の一本。ここが増えているかを見る
- 「最後に名前を出す人」を決めておく。AIが作ったものでも、外に出た瞬間から責任は会社のものになる。誰がそれを引き受けるかを曖昧にしない
AIが強くなるほど、作る工程の値段は下がります。逆に、届ける側の値打ちは上がる。そこで勝負できる体制を先に作っておくのが、小さな会社のAI活用だと考えています。
この話の元になったコラムは AI時代のラストワンマイルとは(AI活用マップ) にあります。人だから成り立つ3つのことを、もう少し掘り下げて書いています。
