2026年10月14日、中小企業政策研究会の10月定例会でオンライン講演をしました。題は「自分の経験やノウハウで動くAI秘書を持つ – 診断士のAI活用実践」です。録画(約2時間5分)をそのまま載せ、その下に話した内容を見出しごとにまとめました。
この記事は、AI活用マップに載せたコラム「講演「自分の経験やノウハウで動くAI秘書を持つ」」をブログ用にしたものです。文字起こしの全文は、元の記事に載せています。
同じAIなのに、なぜ答えの質が違うのか
講演はこの問いから始めました。同じClaudeやChatGPTを使っていても、「仕事時間が半分になった」という人もいれば、「一般論しか返ってこない」「自分でやったほうが早い」という人もいます。道具も料金プランもほとんど同じなのに、結果がまるで違う。その差がどこから来るのかに、私なりの答えを伝えます。
最初に出したのは「28%」という数字です。Salesforceの調査(State of Sales 第5版、2022年・38カ国7,775人)で、営業担当者が実際に営業活動に使っている時間は、1週間のうち28%しかありませんでした。残りの72%は、見込み客の調査、顧客情報の管理、提案書づくり、準備や社内の事務です。
この72%の多くを、私はいまAIに任せています。提案書は骨子を作ってもらい、面談の前には準備メモが朝にできていて、面談が終われば顧客の記録が更新されています。AIが出てくる前は、2時間の面談の報告書に、同じくらいの時間をかけていました。診断士の仕事も、事業者と話す時間より、その前後の準備や記録、連絡に多くの時間を使っています。
生成AIの仕組みは「ガチャ」
生成AIは、学習した大量の文章のパターンから、次に来る確率が高い言葉を選んでつないでいるだけです。日本むかしばなしで「むかしむかし、あるところに」と聞けば、次に「おじいさんとおばあさんが」と浮かぶのと同じです。
AIは正解を知って答えているわけではありません。だから同じ質問でも答えが毎回少し変わりますし、もっともらしい嘘(ハルシネーション)も出ます。有名な会社の社長のことなら正しく答えられても、街の小さな会社の社長のことは、情報がないままそれらしい答えを作ってしまいます。
ガチャの仕組みそのものは変えられません。だから「AIを使いこなす」とは、求める答えが出る確率を上げることだと考えています。いちばん簡単な方法は、AIが知らないこと(ホームページ、面談で聞いた話など)を、こちらから渡してから聞くことです。
AI活用は4つの掛け算
確率を上げるのに必要なものを、レストランにたとえました。
| 要素 | レストランでいうと | 中身 |
|---|---|---|
| ①AIモデル | シェフ | ChatGPT・Claude・Geminiなど。どれも人間の専門家に並ぶ水準で、差は思うほど大きくない |
| ②指示力 | レシピと道具 | プロンプトと、繰り返し使う手順書(スキル)。完成形を示しておく |
| ③自分だけの情報 | 材料の仕入れと仕込み | 経験・知識・記憶。これがないと誰が聞いても同じ答えになる |
| ④索引力 | 整理されたキッチン | 必要な情報をすぐ取り出せる環境。AIが自分で読みに行ける状態 |
掛け算にしているのは、どれか1つが欠けると全体が崩れるからです。モデルは誰でも同じものが使えるので、差がつくのは②〜④、なかでも③の自分だけの情報だと考えています。
コンテキストは「手足・脳・心」
AIの世界でいうコンテキストは、AIがその場で受け取る情報のことです。書いたプロンプト、添付した資料、会話の履歴もすべて含みます。コンテキストが変われば、出てくる答えも変わります。
コンテキストを、人間の体にたとえて3つに分けて説明をします。
- 手足(動かし方):プロンプト(毎回の指示)、スキル(ひとつの作業の手順書)、エージェント(目的まで進める担当者)
- 脳(知っていること):データ(事実)、ナレッジ(解釈や判断)、メモリ(記憶)
- 心(振る舞い):最初に読む設定ファイル、ルール、特定のきっかけで動く設定
多くの人はプロンプトだけを工夫しようとしますが、プロンプトはこの中のひとつにすぎません。講演の最初に、私はデモの準備で「報告書を作って」と会社名、ファイルの場所しか打っていません。それでも思った通りに動くのは、残りが整っているからです。
スキルは、一度登録すれば同じ手順を呼び出せます。メールの下書きならこのアカウントで、書き出しはこう、Notionのタスクならこのテーブルのこの項目に、といったことを先に決めておきます。いまは120個ほどありますが、使いながら1つずつ増やした結果です。GPTsやGemsは年内に終了予定と報じられていて、今後はスキルを使う方向になります。スキルもエージェントも、中身は日本語で書いたテキストファイルです。
脳の部分では、データは渡すほど精度が上がりますが、整理が大事です。「提案書」「提案書_最新版」「提案書_最終版」が並んでいたら、人間が迷うものはAIも迷います。ナレッジは、同じ補助金の情報でも「使うべき」「使わないほうがいい」と人によって解釈が分かれる、その解釈の部分です。メモリは5つのファイルに分けています。自分は何者か、どう動くか、何が起きたか(ログ)、何を感じているか(AIにしてもらっているコーチングの記録)、いまどこにいるか(今年のゴールと今日やること)です。
心の部分の設定ファイルは、ClaudeならCLAUDE.md、ChatGPTやGeminiならAGENTS.mdです。AIが動き出すときに必ず最初に読むので、言語、どこに何があるか、どう振る舞ってほしいか(エンジニアではないので噛み砕いて説明する、お世辞は言わない、反対意見やリスクも遠慮せず言う、など)を書いています。
コンテキストが整うと
- 一般論が返ってこなくなる:「来週の面談、何を準備したらいい?」と聞くと、前回の話の続きや、送ると言ってまだ送っていない資料を挙げてくれる
- 指示が減る:「報告書を作って」で動く。自動化した作業は、指示しなくても勝手に動いて終わる
- モデルの性能が気にならなくなる:1年前のモデル(Claude Sonnet 3.7)でも十分に動いていた。新しいモデルに替えるのは、速さや安さのため
講演の本題は「AIはコンテキストが9割」です。
差はAIそのものではなく、AIに何を渡しているかにあります。渡せるものを持っているのは、AIではなく人間のほうです。
チャットとエージェントの違い
チャットは、聞かれたことに上手に答えるアドバイザーです。でも、報告書の文案をもらっても、それをWordのひな型に貼り、保存し、顧客の記録を別に入力するのは人間です。エージェントは、目的に向かって最後まで動く担当者です。文字起こしとひな型と顧客の情報を読み、Wordに書き込み、顧客情報の更新まで終わらせます。
私の使い方では、ClaudeやChatGPTが司令塔(メインのエージェント)で、報告書担当、リサーチ担当、顧客管理担当といった専任の担当者(サブエージェント)を呼び出します。司令塔はCodexやAntigravityにも替えられるようにしてあり、ひとつの会社のサービスに依存しないようにしています。
実演した3つのこと
講演の途中で、裏でAIを動かしておき、結果を見せました(会社や人の名前はデモ用に作ったものです)。
- 面談報告書から顧客情報の更新まで:ボイスメモの文字起こしを渡して「報告書を作って」と頼むと、Wordの報告書ができ、顧客カードとNotionの面談履歴が更新され、次回のアクションも書き込まれる。最終確認と手直しは自分でするが、以前は2時間かけていたものが、長くても30分ほどで仕上がるようになった
- 毎日のブリーフィングノート:朝7時に、その日の予定・面談相手の前回の話・フォローが必要な人・健康データ・セキュリティチェックをまとめた画面ができ、12時・15時・18時に更新される。今日やると決めたことが進んでいるかも、AIが見ている
- 気になった記事の整理:ブラウザの拡張機能で記事を保存しておくだけで、AIが要約し、「自分の環境でできていること・できていないこと」を整理して、次にやることの案をメールで送ってくる
ほかに、訪問前にホームページやGoogleマップの状態を診断したレポートをお土産に持っていくこと、名刺を撮影すると顧客カードに連絡先が入ること、フォローやお礼のメールの下書きが翌朝にできていることも紹介しました。
今日から始めるコンテキスト
- 初級:課金して、エージェントを使ってみる。Claude Code、Codex、Antigravityなどで、人間ではなくAIが作業をする体験をする
- 中級①:スキルを作る。いつもの繰り返し作業をしたら「今やったことをスキルにしておいて」と頼むだけ。うまくいかなければ手直しを繰り返す
- 中級②:コンテキストを整理する。AIが読みやすいのは自分のパソコンの中の、Markdown形式のテキストファイル。私はログ→メモ→ノート→カードの4段階に分け、考えを研ぎ澄ましたものだけをAIが見ればいいようにしている。全部の情報を渡せばいいわけではなく、まず1枚のカードを見せ、足りなければGoogleドライブやNotionを見に行かせる
- 中級③:既にあるパッケージを使う。Hermes Agent、Grok Bot、Dotsなど、AIエージェントを入れやすくしたものがある。私自身はどれも使っていない
- 上級:自分で作る。記憶やスキルを自分のパソコンに残しておけば、サービスをやめても積み上げたものが消えない。設定ファイルの次に「どこに何があるか」の地図を読ませ、そこから人物カード、Gmail、Googleドライブへとたどれるようにしている
暇になって、考えたこと
この半年で、仕事時間が減り、圧倒的に暇になりました。以前は面談の帰りの電車でノートパソコンを開いて、忘れないうちに報告書を書いていましたが、それがなくなりました。そこで、これまでは作業をして忙しそうにしていただけなのではないか、と気づきました。
AIで仕事がなくなるのか、という問いには、技術が変わっても目的や問題は変わらない、と考えています。「相手とつながりたい」という目的は、電話交換手の時代からSNSの時代まで残っています。診断士の仕事もなくならず、形が変わるのだと思います。
誰もが同じAIを使えるようになると、作業の部分では差がつきません。スマイルカーブでいえば、真ん中の作業はAIに任せ、両端の企画や判断(AIが作ったデザインの良し悪しを決める、など)が人間に残ります。AIには、追加の費用なく動ける範囲で最大限働いてもらい、これまで手間がかかってできなかったこと(一人ひとりへのレポートや、前日のリマインドなど)にも手を伸ばす。人間は人間らしさを出し、一件一件を丁寧にやる。独立したばかりのころ、政策研の先輩の筆箱に貼ってあった「当たり前を、バカにせず、ちゃんと、できるようになる」という言葉を、いまAIと働きながらあらためて大事だと感じています。
質疑から
- 秘密情報をAIに入れてよいか:初めてお会いするクライアントには、AIやデジタルツールの使い方と情報保護(録音すること、学習させない設定にしていること、など)を説明し、同意をもらってから使っている。Googleドライブに預けるのがよくて、同じGoogleのAIがだめという理由は、私には見当たらない。クラウドに一切入れないという方針の会社なら、AIは使わない
- 上級ではコードを読めないといけないか:読めなくて大丈夫。私も読んでいない。動かしてみて変だと思ったら直してもらう、の繰り返し
- Mac miniでローカルLLMを動かしているか:使っていない。手元のMac mini(M4・メモリ24GB)では遅く、軽いモデルしか動かない。試すならメモリは32GB以上がほしい
文字起こしの全文
講演の文字起こしの全文は、AI活用マップの元記事に載せています。
